昨年、親族の葬儀参列のため地元の山形に帰省しました。驚いたのが、式が「神式」で行われたことでした。無宗教の家柄とはいえ、これまでは数珠をもって供養する「仏式」だったのに。
父に聞けば、「寺から請求された金額が高すぎたから、急遽(神式に)変えた」。
つまりは、「お金」の問題だったわけです。
冠婚葬祭をお金=コスパで考えるのは罰が当たりそうな感覚もありましたが、父の判断も最もな気がします。違和感のまま、帰りの新幹線で「葬儀 費用」と検索してみると、お墓やお坊さんの比較サイトの存在を知りました。
今回取り上げる「鎌倉新書」は、葬儀・お墓・仏壇など終活関連のポータルサイトを運営している企業です。高齢化の未来が確定している中、「終活ビジネス」という独特のポジションで事業を進める同社は、他企業が羨むほどの成長率を誇っていました。
①どんな企業か?
沿革・事業の内容
鎌倉新書は、仏壇仏具向け出版社が祖業。葬儀、お墓、仏壇をメインとした「終活」市場に事業を広げ、現在は高齢社会を見据え「終活インフラ」となることを目指しています。
主な事業は、インターネット上のマッチングプラットフォーム事業です。日常的に経験することのない「非日常イベント」である終活イベントの特性を活かし、ユーザーと事業者の情報格差を埋める複数の場を提供しています。
ユーザーがプラットフォーム経由で葬儀やお墓の購入に至った場合、事業者から一定の手数料をもらったり、事業所がプラットフォームに広告を掲載するモデルで収益をあげています。
業績推移・CF(キャッシュフロー)
②5年後はどんな姿か?【未来】
売上高は、右肩上がりが続いています。23年度1月期は、売上高50億円に到達しようかという数字です。売上高、営業利益の5年平均成長率は、それぞれ23.5%、10.2%と、順調に成長していることが見てとれます。
メディア(ポータルサイト)で収益をあげている他企業と比較すると、ここ数年の営業利益率15%前後はやや物足りない数字に見えますが、これはコロナ期間で葬式を手控える動きや簡素化の動きがあったためと考えるのが自然でしょう。
BS(バランスシート)に目を移すと、高い自己資本比率が目立ちます。
2017年に公募増資で9億8000万円を調達しており、一気に自己資本を増やしました。インターネットビジネスの特性上、大きな設備投資も必要なく、借入をする必要がないのでしょう。
内部要因
プラットフォーム事業は順調に推移していくと思われますが、新たに取り組んでいるのが自治体と連携した「官民共同事業」です。「終活といえば鎌倉新書」の認識が地方自治体では広まりつつあるようで、直近(23年1月期)決算時点で43都道府県237自治体と提携。
家族・親族がなくなると、死亡届の提出や年金受給停止の手続きなど、様々な対応が必要になります。そこで鎌倉新書が自治体と共同で、「おくやみハンドブック」を設置したり、「おくやみチャットボット」の運用を支援したりしています。
インターネット経由ではポータルサイト経由、リアルの場では自治体経由で自社サービスと接点をもってもらう運用を実現し、だれもがライフイベントの中で鎌倉新書に触れるような仕組みを構築することを目指しているようです。
外的要因
日本の総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は、28%を超えています。
内閣府の推計では、2025年の高齢化率は30%、2065年には38.4%に達する見込み。つまり、人口の3人に一人以上が65歳以上のおじいちゃん・おばあちゃんとなる計算です。
ネガティブに語られることの多い高齢化も、鎌倉新書のビジネスにとってはむしろポジティブに働くでしょう。亡くなる人数が増えれば葬儀の数も増え、自然とプラットフォームの利用数も増加していくと考えられます。
また、葬儀の方式は日本独自のものと思われるため、海外に展開していくことはなさそうです。
まとめ|高齢化とともに業績伸長
鎌倉新書のビジネスモデル、業績を概観してきました。
社会保障の財源問題、財源確保のための増税など、消費者目線ではマイナスに捉えられてしまう高齢化がプラス要因にはたらく「終活」マーケットを、ビジネス目線で捉えたことのない方も多いでしょう。私もその一人でした。
競合との差別化も図ることができている鎌倉新書は、今後も着実な成長が見込まれるのではないでしょうか。
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